M&Aの手法
株式移転の法務・手続き
共同で株式移転を行う場合、独占禁止法により、事業支配力が過度に集中することとなる会社の禁止や、一定の取引分やの競争を実質的に制限する株式の保有規制などを規定されています。
このような株式移転を未然に防止する手続きとして、一定の要件に該当する場合に、公正取引委員会に届出ならびに報告することになっています。
株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、株式移転完全子会社の発行済株式の全部を取得します(会社法774①)
株式移転により、株式移転完全子法人の株主に株式移転完全親法人の有価証券が交付される有価証券について開示が行われていない時には、その株式移転親法人に開示義務が課されます。
また、有価証券報告書を提出する義務のある会社が、一定規模以上の株式移転を行う場合などには、臨時報告書の提出が必要になります。
株式移転完全子会社は、株式移転計画備置開始日から株式移転設立完全親会社の設立後6ヶ月を経過する日までの間、決められた事項を記載し、又は記録した書面または電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
株式移転をする場合には、反対株主は、株式移転完全子会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます。この場合の反対株主とは、
ただし、自己が株式を有する会社が種類株式発行会社ではない場合において、株式交換の対価の全部または一部が持分等であるとき、株式交換契約について自己が株式を有する会社の総株主の同意を得なければならない場合は除きます。
ただし、以下の株主に限られます。
- (a)株式移転承認のための株主総会に先立って(効力発生日の20日前まで公告又は通知を行ったの日から効力発生日の前日までの間に)会社に対し書面をもって株式交換に反対する意思を通知し(株式買取請求に関わる株式の数を記載して、株式の買取を求める旨記載)
かつ
- (b)株主総会において株式移転に反対した株主またはその株主総会において議決権を行使することができない株主
ただし、書面投票制度が採用された場合には、期限内(総会の前日)に到達したものについては、書面の記載に従って、議決権を行使したものとして取り扱われるので、現実の出席は不要です。また、株主総会の決議が不要な場合は、全ての株主が対象となります。
株式買取請求は株主の意思表示が会社に到達したときに、会社との間で売買契約が成立しますので、会社の承諾は不要です。買取価格は、まず株主と会社との間で協議し、価格が決定されれば、会社は決議の日から60日以内に支払いをしなければなりません。決議の日から60日以内に価格が決まらない場合は、株主または事業譲渡する会社は、その期間経過後30日以内に、裁判所に対し、価格決定の申し立てをすることができます。会社が買取代金を支払ったときは、当該株式は会社に移転します。
株主総会決議が取り消されたり、株式移転が中止されたりした場合、両者が撤回を合意した場合には、買取請求は失効します。また、裁判所に価格決定の申し立てを期限内にしなかった場合も、株式買取請求を撤回することができます。
独占禁止法は、一定の取引分野の競争を実質的に制限する株式の保有を規制しています。そこで、一定の株式移転の場合には、独占禁止法により、公正取引委員会に対する届出や報告の義務が定められています。株式移転が独占禁止法の各規定に抵触する可能性がある場合は、株式交換の計画段階から必要に応じて公正取引委員会に事前相談をしておくことが重要です。
株式交換等を行うことで、以下になる場合は株式移転が禁止されます。
- 1. 事業支配力が過度に集中する事になる場合
-
他の国内の会社等を所有することにより事業支配力が過度に集中する会社を設立することはできません。
(独占禁止法9①)
持株会社グループの形態が書きのいずれかに該当し
- (a)総合的事業規模が相当数の事業分野に渡って著しく大きい事。
- (b)資金に係る取引に起因する他の事業者に対する影響力が著しく大きい事。
- (c)相互に関連性のある相当数の事業分野においてそれぞれ有力な地位を占めている事
国民経済に大きな影響を及ぼし、公正かつ自由な競争の妨げになるという要件を全て満たす場合に、当該持株会社は、事業支配力が過度に集中する事となる持株会社となります。上記のような法律の要件は抽象的ですので、具体的な事例判断は公正取引委員会のガイドラインをご覧ください。
会社およびその子会社の総資産の額の合計額が、次の会社の種類ごとに次の基準額を超える場合に、毎事業年度の終了の日から3ヶ月以内に、次号に関する報告書(公正取引委員会ホームページ参照)を公正取引委員会に提出しなければなりません。株式移転によって、完全親会社およびその子会社の総資産の額で、国内の会社に係る合計額が、次の会社の種類ごとに次の基準額を超える場合に、完全親会社はその設立の日から30日以内に、公正取引委員会に会社設立の届出書(公正取引委員会ホームページ参照)を提出する必要があります。ただし、完全親会社に親会社がある場合は届け出る必要はありません。(独占禁止法9⑦)
- (1)持株会社(完全子会社株式の取得価額の合計額の完全親会社の総資産の額に対する割合が100分の50を超える会社)・・・・・・・・6000億円
- (2)銀行、保険会社および証券会社(持株会社除く)・・・・・・・・8兆円
- (3)上記以外の会社・・・・・・・・2兆円
- 2. 一定の取引分野における競争を実質的に制限する事となる場合(共同株式移転の時のみ)
以下の3プロセスで一定の取引分野における競争を実質的に制限する事となるかどうかを判断します。
- 企業結合か
- 市場はどこにあるか(一定取引分野の確定)
- 競争原殺があるか(競争の実質的制限の有無)
- 1. 企業結合
- 株式所有割合や株主の順位などを総合考慮して認めるか否かを総合判断します。また、役員兼任がある場合、企業結合を認定されやすいので、注意が必要です。株式移転による持株会社化の場合、完全親子会社関係が形成されますので、親子間で株式保有比率50%超にそれぞれあたり、複数の事業会社が共同株式移転をしていれば、その事業会社同士も持株会社を介して結合関係になります。
いずれにせよ、グレーゾーンの場合、公正取引委員会に事前相談をして、より問題のないスキームに修正していきましょう。 2015年3月現在、最新の企業結合詳細はこちらです。 ※公正取引委員会のサイト(外部)にリンクします。
- 2. 市場はどこにあるか
- たとえば、ヤフーとアマゾンが企業結合したとします。問題の市場をECというくくりでみるのか、インターネットというくくりでみるのか、IT会社というくくりでみるのかで結果は異なります。 商品・役務の特性、地理的範囲、取引段階、取引の相手方等を考慮して、関連市場を確定してください。
- 3. 競争原殺があるか
- 商品役務の質、値段を固定化させることです。正当な理由がなければ独占禁止法違反になります。当事会社の地位、市場の状況(競争者の数・集中度、参入障壁、輸入、取引関係の閉鎖性・排他性)、隣接市場からの圧力など、その他諸々の要素を合わせて、ガイドラインにのっとって、白か黒か判断しますので、心配な場合は、必ず事前相談してください。
- 経営破綻会社に対する支援
- 当事会社グループの市場シェアが10%以下
- 当事会社グループの市場シェアが25%以下、かつ順位が2位以下で、輸入含め算入が容易な市場である場合
- 垂直型結合・混合型結合であり、市場の閉鎖性、排他性、総合的事業能力等の問題を生じない場合
一方,公正取引委員会は,その必要があると認める場合には,30日間の株式取得の禁止期間を短縮できます。当事会社から株式取得禁止期間の短縮の申出があった場合,公正取引委員会は以下の2つの要件を満たすときは,株式取得禁止期間を短縮することとしています。- (1)当該事案が独占禁止法上問題がないことが明らかな場合
- (2)株式取得禁止期間を短縮することについて届出会社が書面で申し出た場合
- 一定以上規模(通常は5%超、保険会社は10%超)の金融機関の株式保有規制(金融機関が他の会社の株式を保有する規制)
ただし、公正取引委員会の許可を受けた場合は例外となります。またこちらの条項(独占禁止法11)については議論がなされており、本ウェブサイト作成後、変更する可能性が高いですので、最新の情報を必ずご確認ください。 - 不公正な取引方法による共同株式移転手き(共同株式移転の時のみ)
共同株式移転が不公正な取引方法によるものである場合は、共同株式移転をすることができません。(独占禁止法15の3①)
共同株式移転をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高合計額(※1)が200億円を超え、かつ他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合には、共同株式移転に関する計画書(様式第11号)を公正取引委員会に届出なければなりません。(独占禁止法15の3②)
ただし、すべての共同株式移転をしようとする会社が、同一の企業結合集団に属する場合は、届出は不要です。届出受理の日から30日を経過する日までは共同株式移転をすることができません。
白黒がはっきりしないものがある場合は必ず公正取引委員会に事前相談にいってください。また、長いものでは、2、3ヶ月審査を要することもあり、また、一部営業の外部への譲渡を条件とするなどの修正を求められることもありますので、十分に余裕をもって事前相談を行ってください。
1. 株式移転完全子会社の株券等に関して、開示がおこなわれている場合あるいは交付有価証券に関して開示が行われていない場合に、「特定組織再編成発行(交付)手続き」の発行(売出)価額が1億円以上の場合、事前備置有価証券届出書を提出しなければなりません。
次の①または②に該当する場合が、「特定組織再編成発行手続き」とされます。
- ①新たに発行される有価証券が第1項有価証券(金証法第2条第1項にあげる有価証券)である場合で、株式移転完全子会社の株主等が50名以上であるとき。ただし以下のものを除く。
- 株式移転完全子会社の株主等が適格機関投資家のみであって「プロ私募」の要件を満たす場合
- 株式移転完全子会社の株主等が49名以下であって、「少人数私募」の要件を満たす場合
- ②新たに発行される有価証券が第2項有価証券である場合で、その株主等が500名以上であるとき。
3. すでに有証券報告書を提出している会社が、次に該当するの株式移転が行われることが提出会社または連結子会社の業務執行を決定する期間により定された場合は臨時報告書を提出しなければなりません。
- (1)提出会社の株式移転
- (2)連結会社の資産の額が最新連結事業年度末日における連結準資産額の100分の30以上減少または増加すると見込まれる連結子会社の株式移転
- (3)連結会社の売上高が最近連結会計年度の売上高の100分の10以上減少または増加すると見込まれる連結子会社の株式移転
株式移転完全親子会社双方は、株式移転の効力発生日から6ヶ月間、以下の事項を記載した書面を本店に据置しなければなりません。(会社法791①、②、801③3)
- 株式移転効力発生日
- 各当事会社における株式買取請求および株式移転完全子会社における新株予約券買取請求の手続きの経過
- 各当事会社における債権者の異議手続きの経過
- 株式移転により株式交換完全親会社に移転した株式交換完全子会社の株式数
- その他株式交換に関する重要な事項