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M&Aの契約のポイント
大分類 | 取引の類型 | 必要な最終契約の典型例 |
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買収 | 株式譲渡(相対取引) | 株式譲渡契約書 |
株式譲渡(公開買付け) | 応募契約書・賛同契約書 | |
第三者割当 | 株式引受契約書 | |
株式交換・株式移転 | 株式交換契約書・共同株式移転契約書 | |
事業譲渡 | 事業譲渡契約書 | |
合併 | 合併 | 合併契約書 |
会社分割 | 会社分割 | 吸収分割契約書 |
当ページでは株式譲渡契約書について記載していますので、その他の最終契約については、M&A契約のポイント(その他の最終契約)をご覧ください。
株式譲渡契約とは、相対取引の株式譲渡によるM&Aの最終契約です。以下のようなものが記載されています。
- M&A取引の実行(クロージング)について条件が定められ、これが整った場合に初めて取引が実行されるということ
- 両当事者が取引の前提とする事実を相互に表明保障すること
- クロージング前後に遵守すべき事項について誓約が規定されること
株式譲渡については、「株式譲渡とは?」をご参照ください。
株式譲渡契約書締結に際し、以下に注意してください。
- 独占禁止法に基づく規制
- 公正取引委員会への事前の届け出が必要になるM&A取引の場合、買主は届出受理後30日間は原則として株式取得ができません。また海外の場合も類似の規制がありますので、必要に応じて、株式譲渡契約書の中にこれを取引実行条件として盛り込む必要があります。
- 外為法に基づく規制
- 買主が外国人投資家である場合は、外為法上の対内直接投資等に該当し、買主において、事前届け出または事後届出が必要になることがあります。
該当する場合は、取引実行条件や誓約として何らかの規定をする必要があります。
- 金融商品取引法に関する規制(インサイダー取引規制や開示義務など)
- 対象会社が上場会社である場合には、相対取引ではなくTOBによる株式取得がメインになると思いますが、相対取引による場合は、インサイダー取引規制と開示義務に気を付ける必要があります。
機関決定がなされたタイミングで、クロージングに先立ち、対象会社に公表してもらうことが必要となりますが、重要事実を未だ公表すべき時期でないときは、知る者同士の証券市場によらない取引(「クロクロ取引」)となり、インサイダー取引規制の例外とされています。
上場株式を相対取引で譲渡するための株式譲渡契約書においては、このようなクロクロ取引であることを明確にするために、売主・買主がいずれも重要事実の存在を知っていることを確認する規定を置きましょう。そして、株式譲渡契約書とは別に、対象会社との間で他に未公表の重要事実が存在しない旨の確認書などを作成することもあります。
また、臨時報告書や親会社等状況報告書、大量保有報告書の提出、取引所規則に基づく適時開示など、開示義務の規制がありますので、この開示との関係で、株式譲渡契約書の公表に関する条項は一定の制限を受けることになります。
印紙については、株式譲渡契約書は基本的に不要ですが、以下の場合などは必要になります。また、株式譲渡以外の取引が併せて規定されている場合は、当該取引が課税文書に該当する可能性がないか確認をしてください。
- 取引実行後の売主、買主間の継続な取引関係を定める条項
- 債権譲渡・債務引受に係る条項
また、以下の書類が国内で作成されると課税文書に該当しますので注意が必要です。
- 買主から売主に対して株券受領証が交付される場合
- 支払われた売買金額について売主から買主に対して売買代金の領収書が交付される場合
株主(売主)と買主間の契約になります。売主や買主は複数名になることもあります。
株式譲渡契約書締結前に、相手方が株式譲渡契約書を締結し履行するための必要な権限および権能、行為能力を有しているかどうか、確認する必要があります。 SPCなどの資力が限定的で実態がない会社などの場合は、親会社が保証を提供するような形で親会社の株式譲渡契約書の契約当事者になることが多いです。
ただし、プライベートエクイティファンドによるLBO取引のケースなどは、たとえ、SPCが買主になる場合でも当然にファンドによる保証が提供されるということはないでしょう。
また、親会社が、子会社が本契約の内容を順守させる義務を負うなどという規定を設けることもできます。
- 譲渡の合意
- 売主が対象会社の株式を買主に譲渡して、買主がこれを譲り受けて、その対価として譲渡価格を支払う事に合意する旨、また譲渡価格(1株当たりの価格および総額)を記載します。また、表明保証された発行済株式数が誤っていた場合の時の紛争解決のために、その対象となる株式が、発行済株式数全体の何%になるかも必ず書いておいてください。1度に行わず、一定の期間をもって、何度かにわけて株式の譲渡を行うこともあります。
- 譲渡金額、支払い方法
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譲渡金額については、株式譲渡契約書締結日以降、クロージング日までの業績や財務状況の変動を連動して、クロージング日以降に価格調整を行うことが合意されることもあります。 株の譲渡価格を算定するために、買主は売主に資料の提出や説明義務などを課しましょう。 調整後の株の譲渡価格について合意出来なかった場合どうするか、またそのために費用がかかった場合はその費用をどうするかなどもいれておくとよいです。
株の譲渡価格の調整の条項をいれない場合は、買主は、株式譲渡契約書締結日からクロージグ日までの業績および財務状況の変動リスクをおさえるような文言を、表明保証条項および誓約条項に必ず記載しましょう。 株の譲渡価格の調整の方法を決めるにあたっては,プロのM&Aアドバイザーに主体的に関与してもらうことをおすすめします。その他、アーン・アウト(Earn Out)条項というものがあり、一定期間の業績の連動に併せて、売却価格を決めて、分割で払って行く方法があります。売主が言うとおり対象事業が業績を上げることが確認できるまで、買主はそれに見合った対価を支払いませんというようなイメージです。計算方法を決めるにあたっては、プロのM&Aアドバイザーに主体的に関与してもらうことをおすすめします。
買手にとっては、将来の業績が不安な企業を買う時に、業績に連動させた価格をつけることができるので、事業計画を達成できない場合のリスクを一部売主に転化することができます。
また、株式譲渡実行後も、売主(個人)が対象会社の経営陣やコンサルタントで残る場合、クロージング後も売主に一生懸命働いてもらう動機づけを与えることができます。売主にとっては、業績が不安定なために、今後の業績に自信があっても買手が評価をしてくれない場合があります。その時に、このような業績連動型の条項を入れる事で、両社の意見の不一致を埋め、M&A交渉がスムーズに進むことがあります。また、買手に上限金額を設定されることがありますが、これは外すように交渉してください。将来、業績が大きくあがった場合への夢を残しておきましょう。
また、買主が、自分に有利な算定結果を出す為に、設備投資のタイミングを変えたり、仕入れ債務のサイトを変えたり等等、様々な操作を行う可能性も否定できませんので、価格決定の計算方法の中で、かかる買主の操作を排除する設計となるように工夫をしたり、誓約事項の中で一定の取り決めをしておくなどしてください。ただし、一定期間が経過して、株式を売却する際に、その価格、および価格の決定方法について争いが勃発することが多いため、注意が必要です。価格の決定方法においては、特に、だれが決定するのか、その決定者はどのように決められるのか、決定にあたって買収者側の事情で発生した費用をどのように価格に反映させるべきであるかという点について紛争となることが多いため、アーン・アウト条項を含んだ株式譲渡契約書を作成する段階においては、極めて慎重な判断が求められます。
クロスボーダーM&A(国際間M&A)の場合は、
- 買収側の日本企業としては、決定者は被買収会社の取締役会で決定することができると明確に記載すること(被買収者の取締役会は多くの場合買収側の企業が過半数を占めていることが多いため)
- 買収者側での事情で発生した費用の定義を明確化すること(キャッチオール的に除外できる条項があった場合に紛争に発展することが多い)
が重要です。
- 支払い方法
-
振り込み口座を記載して、株の譲渡代金の振込先を指定する方法が一般的です。
通常はクロージング日に一括で買主から売主に支払われることが通常ですが、株の譲渡価格の一部については後払い(支払いの一部留保)をすることもあります。
一定期間、様子をみて、株式譲渡契約書に記載されている表明保証違反や誓約事項の違反がなかったことを確認してから、残りの株の譲渡代金を支払うというものです。 紛争があった場合、特にクロスボーダー訴訟などの経済的負担は大きいですので、一部の譲渡価格の支払いを後にして、補償責任の担保とする意義はとても大きいです。 一部の支払いを後払いすることは、売主から買主に貸し付けしているのと同じですので、一定の利息相当額を売主が請求することもあります。
また、相手方が外国法人または海外の準拠法に基づいて組成されたファンドである場合には、将来の補償請求がクロスボーダー訴訟となってしまい、補償請求権行使が容易ではないので、エスクローなどを積極的に活用するようにしてください。 日本の信託銀行などの金融機関もエスクロー・エージェントサービスを提供しています。
エスクロー・エージェントが、売主への支払いの条件の成就を実質的に判断することは困難ですので、出来る限り、客観的な条件で譲渡価格の引き出しがなされるように設計される事が多いです。 ただし、エスクロー・エージェントへの報酬や費用の支払いが必要となりますので、この費用をどちらがどのように負担するかも株式譲渡契約書に記載する必要があります。 エスクローの金額とその解除期間を株式譲渡契約書に定めてください。 その期間が長ければ長いほど、買い手は有利です。
株の譲渡代金が支払われて、売主から買主への株式の譲渡(権利の移転)が行われて、クロージングとなります。 対象会社のリファイナンスや新たな担保権の設定や売主への退職金の支払いなども、同時または同日に行われる場合が多いですので、これらについてもクロージングに関する規定として株式譲渡契約書に定める必要があります。
株主としての地位を会社に対して対抗できるようにするために、株主名簿の書き換えは必須ですので、売手が対象会社を完全に支配してる場合は、出来れば、書き替えた株主名簿を譲渡代金支払いと同時にクロージング時に売手に持参または、売主と買主が対象会社をして名義買い替えを行わせる旨の規定を置く必要があります。
対象会社の独立性が高い場合は、株券の交付にかえて、株主名簿書換請求書など、株主名簿の書換を対象会社に対して請求する為の必要な書面の交付を規定することも考えられます。
また、上場会社の振替株式が譲渡の対象となっている場合には、振替申請に関する規定を置くことになります。
入金確認と同時に、株券を発行してる会社の場合は株券の交付、そして、銀行印、通帳、実印、印鑑カードなどを買い手に渡すなどの内容を規定することが多いです。
必要な手続きや必要書類が多数になる事が多いですので、M&Aアドバイザーが「クロージングメモ」というものを作って、それを見ながら関係者でクロージングを進めます。
また、買主または売主が海外に住所を有しており、株券の保管場所も海外になるような場合は、その輸送手段、運賃や保険の金額もどうするかを検討する必要があります。
大きな規模の案件は、独占禁止法の関係で、原則として、クロージング日の30日前の届出が必要とされることから、株式譲渡契約書締結前に届出を行い場合は、届出要件を充たさない場合を除き、 原則として株式譲渡契約書締結日とクロージング日の間には30日以上の間隔をあける必要があります。
M&A取引実行前提条件が充たされない場合、クロージングを延長させなければならなくなる場合があります。
そのために、クロージング日を「○○年○月○日または同日以後に前提条件が全て充足されもしくは放棄された日または別途当事者が合意した日」またはなどと、株式譲渡契約書に定義することもあります。
クロージング場所の記載は必須ではありませんが、銀行の会議室、または買主または売主のM&Aアドバイザーの事務所がクロージング会場として指定されます。LBOの場合は担保権者のオフィスも指定される事もあります。
銀行の会議室以外が、クロージング会場の場合は、銀行に売主・買主の会社の従業員をおいて入金・着金確認をしながら、スマートフォンなどで会場と連絡を取り合い、会場では、同時に株券を渡したりという方法で同時履行を行うことが多いです。
ただし、海外送金が必要な場合は同時履行が難しいです。日本国内の非居住者口座を用いる事により、可能な限りその時間を短くするなどの工夫も行ってください。クロージング日に着金を確認できるよう、早めに送金指示を出すなども行われますが、あくまでも支払いと譲渡という2つの行為はあくまでも同時に行われるものであって、引換給付であることを明示してください。
クロージング条件がきちんと充足しているか、必要書類が揃っているかなどを事前に関係者が集まって、確認するために、プレ・クロージングというものを行うこともあります。プレ・クロージングを行っておくと、クロージング当日のトラブルの発生を抑える事ができます。
100%買収ではなく、少数株主が残る場合は、買収後の役員変更の株主総会を開く為に、招集に関し、売主に協力義務を定めたり、クロージングにあわせて株主総会を招集しておくことを取引前提条件として義務にしておくこともあります。その場合は、クロージングが行われなかった場合の対応についても、少数株主の人数や性質を考慮した上で事前に検討し、規定しておく必要があります。
一定の前提条件が充足された時にのみ、株式譲渡が実行される旨を合意する条項です。売り手がこの条件を満たすことができない場合には、買い手はクロージングを拒絶することができます。
取引実行にどうしても必要な重要な条件のみを入れてください。
また、その権利の放棄もできる内容もいれ、 前提条件を放棄した場合であっても、義務を履行すべき者は、当該放棄がなされた条件に関する義務および責任を免れるものではない旨かかれた条項も念のため併せて株式譲渡契約書に規定することが望ましいです。
以下のような内容が取引実行前提条件となることが多いです。
- 表明保証について、クロージング日において、当事者による表明保証の内容が(重要な点において)真実であること。
- 対象会社において、売主から買主への対象株式の譲渡が承認機関(通常は取締役会)で承認されていること。
- 独占禁止法に基づく届出を行い、通知がなされ、措置期間が終了したこと。その他、許認可関係の重要事項に関する内容。
- 株式譲渡契約締結日からクロージング日までの間に、対象会社の運営、資産または財務状況に重大な影響を及ぼす事項(MAC)が発生していないこと。
- 買主が合理的に要求した書面が売主から買主に交付されていること。(チェンジオブコントロールへの対応など。)
- デューディリジェンス(買収監査)で見つかった問題点の中で重要な点について、クロージング日までに解決されてること。
- クロージング日までに相手方当事者が履行すべき義務を、重大な点において、履行しており、違反がないこと
- 差止訴訟などの不存在
また取引実行前提条件にいれずに、クロージング日までに対応できなかった大事な事項があった場合、株式譲渡価格の調整をするということで対応する方法もあります。
表明保証とは、一般的に、契約当事者の一方が、他方当事者に対して、一定時点において、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その表明した内容を保証するものです。
レップ・アンド・ワランティとも呼ばれ、株式譲渡契約の中で最も大切な条項のうちの1つです。
本契約締結日およびクロージング日においての表明保証が一般的です。
偶発債務や訴訟などの未確定事項についての売り手の公式見解は、表明・補償の形で株式譲渡契約書に盛り込まなければなりません。
デューディリジェンスで問題点が発見されれば、買収価格修正が一番効果的ですが、問題点について双方の見解が相違する場合には、表明保証が有効な手段となります。
隠れた債務も含めて買収前に発生した一切の負債を承継する株式譲渡では、債務に関する売手からの表明保証は特に重要になります。
また、一方的に相手方の主観的認識が、表明保証違反の責任に影響を与えないような条項をいれておく事もあります。
一般的に以下のようなものが表明保証の対象となります。
- <当事者に関する表明保証>
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- (1)契約の締結および履行権限
- (2)契約の有効性および執行可能性
- (3)倒産手続きの不存在
- (4)法令、判決、契約等に係る違反
- (5)株式の保有(売主のみ)
- <対象会社に関する表明保証>(売主による)
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- (1)設立および法的に有効な存続
- (2)倒産手続きの不存在
- (3)法令、判決、契約等にかかる違反
- (4)譲渡株式
- (5)資本
- (6)財務諸表、その他の書類
- (7)潜在債務
- (8)後発事象
- (9)租税、社会保険
- (10)役員・従業員、労働問題、人事関連
- (11)特別関係者との金銭取引
- (12)製造物責任、コンプライアンス
- (13)資産
- (14)商品
- (15)不動産
- (16)知的財産権
- (17)保険
- (18)子会社等
- (19)重要な契約等(重要な契約の有効な存続と、障害となり得る契約の措置、契約に関連する潜在債務)
- (20)許認可等
- (21)法令違反等
- (22)規制
- (23)反社会的勢力との関係
- (24)環境問題
- (25)紛争などの未確定事項
- (26)売主グループとの関係
- (27)情報開示
- (28)報酬(対象会社に株式譲渡契約のための費用を負担させていない表明)
売り手側は、「売り手が知る限りにおいては偶発債務は存在しない」という表現を望むことが多いですが、買い手側にとってはリスクが高くなってしまいますので、この場合は、債務の引き継ぎは買収価格の一部であることを認識し、現在明らかにされていない債務から完全に保護されていないことを理由に、リスク料としての価格の下方修正を要求するべきでしょう。
重大な表明保証違反には株式譲渡契約書に損害賠償規定を設けて対応してください。
表明保証やその他条項にて本契約に記載していない付随的な義務の履行について誓約事項に入れます。
クロージング前の誓約とクロージング後の誓約についてそれぞれ規定します。
クロージング前の誓約については、対象会社の重要な契約に、チェンジ・オブ・コントロール条項が含まれていたような場合、これについての措置を明記したり、デューディリジェンス(買収監査)により発見された問題点の改善について記載される事が多いです。
その他、対象会社で譲渡承認の手続きをクロージング日までにすること、取引実行に必要な許認可や届出をさせる誓約などもあります。
その他、契約当事者に海外当事者が含まれている場合は、外為法の対内直接投資の届け出、支払報告の提出が必要にならないか、対象会社に適用のある業法上、外国投資家による株式保有について一定の規制がないかも事前検討して、必要な手続きの履行を相手方に約束させてください。
その他以下のようなものがあります。
クロージング前の 誓約事項 |
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クロージング後の 誓約事項 |
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売手はクロージングが完了するまで、以下のようなことを対象会社に遵守させます。誓約事項に含めることも多いです。
- 通常の業務の範囲内でその事業を遂行し、対象会社の企業価値に悪影響を行わないこと、
- 対象会社の財産に悪影響を与える行為を行わないこと、
- 対象会社の事業の遂行に適用される全ての法令等を遵守すること、契約を遵守すること
- 配当、剰余金の処分その他の方法をもって対象会社の資産の全部又は一部を売主に交付しないこと
クロージング日までに、クロージング日付けの対象会社の取締役および監査役の辞任届を買主に対して提出すること。
クロージング日に、株式譲渡が行われた直後にすぐに株主総会を開催させて、買主が指名するものを役員に選任させ、登記手続きを協力して行う義務を負うこと。一部の株式の売却で、売主が株主として残る場合は、クロージング後の対象会社の運営に関して、合意することもあります。(別途、株主間契約を同時締結する方法が多いです。)
クロージング後、一定期間、対象会社と類似した業務を、対象会社以外では、売手が行うことができないようにする条項です。
どこまでを類似と捉えるかが論点となります。具体的に地域、事業の内容を書いていくことが多いです。
クロスボーダーM&Aでは、競業避止の代償としての支払額を決めることもあります。
競業避止条項に対する支払は税務上は損金算入が認められることから、買収価格の中から配分するケースが多いです。
しかし、損金算入のためには、最低、株式譲渡契約書(買収契約書)でその金額を定めておく必要があります。
契約当事者に株式譲渡契約書上の義務違反または表明保証違反があった場合、その違反により損害を被った場合など、相手方に損害を補填させるため、また、その条項を入れることで当事者に契約内容を守らせるインセンティブを持たせるための条項です。
下記のようなものが補償請求事由になります。
- 売主がその表明保証に違反したこと、またはその表明保証が不正確であったこと
- 売主による誓約条項(コベナンツ)の不履行
- 善管注意義務違反
- 買収対象会社に対して課せられた、クロージング前の税金
- 除外債務(すなわち、対象会社の債務であって、特に買主が引き受けないこととされたもの)
- 従業員に関する従業員福利厚生費用であって、買主に移転しなかったもの
- 環境関連債務
- クロージング前に生じた製造物責任訴訟等
- その他
売却金額まで等、補償金額の上限額(キャップ)を設定することも多いです。
また、煩雑な手続きを避ける為に、補償証金額の下限額(損害累計額ベース)も決めることもあります。
引退を控えたオーナー企業の社長では老後に損害賠償請求におびえたくないことを理由に拒否することがあります。
その場合は、補償を請求できる期間を決めたり、偶発債務のリスクと見合う分、買収価格の下方修正を考えたりということもあります。
自分の知らない簿外負債や偶発債務については、責任を取りようがないという売り手もいます。
その場合には、リスクシェアリングによる解決を目指してください。
リスク・シェアリングは4つの方法があります。
スプリット方式 | 将来の債務額を売り手と買い手の双方が一定額を負担。買い手が全額負担した後、売り手に半分を戻す方法と、その逆があります。売り手が一定額を負担し、残りは買い手が負担するというパターンが多いです) |
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レイヤーリング・スプリット方式 | 最初の一定額までは買い手が負担し、次の一定額は売り手が負担し、最後の残りを買い手が負担するように定める方式です。 |
ディダクティブル方式 | 一定額までは売り手を免責するものです。 |
バスケット方式 | 一定額以下の債務については、売り手の損害賠償しないが、その金額を超えたものについては全額売り手が補償するものです。 |
表明保証違反にのみ、通常の補償とは異なる条件を定めたり、補償を請求できる期間(1〜5年程度)を決めることもあります。
またクロージング後の誓約違反については、この部分だけ請求期間を誓約の存続期間に応じて変更したりということもあります。
たとえ、この条項がなかったとしても、少なくとも5年間は、補償請求権の行使期間があると考えてよいでしょう。(商事債権に該当する場合。商法522条)
また、国税の更正については、最長7年間は可能とされますので、税務に関する表明保証については補償期間を7年間とすることも検討してください。
また、売手側は、「第三者からクレームなされた場合には補償する」など入れてリスクを限定することおすすめします。
買手側は、損害補償請求をする期間を、契約締結日やクロージング日からではなく、損害が判明した日からとすることで、リスクを減少させることも検討ください。
また、会社売却後、第三者が、売却前の対象会社とのトラブルを元に、対象会社に損害を請求してきた場合、この紛争を解決しなければならないのは、対象会社(新しいオーナーである買い手)になります。
その場合、この条項があるために、売り手に損害を請求すればよいと気持ちが生まれ、真剣にその紛争解決に望まない可能性がでてきます。
税務署とのやりとりでもこのような問題が起ることがあります。
そのような事を避けるために、補償義務を負うもの(上記の例では売り手)が、その紛争に足して一定の関与や支配を持つことを認め、その訴訟手続きに補助参加により直接関与するなどという文言をいれることもあります。
また、補償する義務を負う者が複数人いる場合は、連帯債務とするか分割債務とするかなどについても検討が必要です。
補償金は受け取った場合、損害賠償金の性質を有するものと判断すると、法人税がかかりますので、それも念頭において株式譲渡契約書を作成ください。
売り手が補償金を支払う場合、買い手ではなく対象会社に直接支払ってもらう内容にすると、補償からの益金と補償による損金が相殺できて、税金の支出がなくなります。
M&Aの株式譲渡の場合、通常、株式譲渡契約書締結日と払込などをするクロージング日に一定の期間を置きます。
その間に、買収監査(デューディリジェンス)で出てきた問題点の改善などの一定の義務の履行が行われます。
株式譲渡契約書締結時には、想定しなかった出来事が発生したりした場合に、契約を白紙に戻したいと思うことも出てきます。
この条項で、どんな時に契約を終了・解除をすることができるかを明記します。
以下のようなものが解除理由としてあげられることが多いです。
- (1)終了の契約当事者全員の合意がある場合
- (2)取引を実行しない方がよいような、相手方による重大な表明保証違反が発覚した場合
- (3)取引を実行しない方がよいような、相手方に重大な義務違反が生じた場合
- (4)当事者が倒産した場合、会社更生および民事再生などの申し立てをした場合、私的整理手続きが開始された場合
- (5)取引実行の前提条件が解除当事者の責によらず不可能になった場合
- (6)取引実行の前提条件が充足されないまま、取引実行期限日が到来した場合
また、株式譲渡契約書を解除した場合に、相手方に金銭を支払うブレイクアップフィーの条項を入れることもありますが、その場合は、解除のための金銭を支払えば自由に解除できるという選択肢を与えることにもなります。
状況を見て判断していきましょう。
また、相手方の義務違反で契約を解除した場合、補償請求を許容する旨の記載も可能です。
補償条項、準拠法・紛争解決方法、守秘義務の条項などについては、契約が解除されても有効だという存続条項をいれておくとよいです。
また、契約当事者が複数人いる場合、いずれかの当事者に債務不履行があった場合に、契約全体の解除を認めるか、当該債務不履行当事者にかかる株式譲渡についてのみ解除を認めるかなども検討が必要です。
基本的な内容は一番最初に締結する秘密保持契約と類似したものでよいですが、情報の開示先など変更するために、 当初に締結された秘密保持契約は株式譲渡契約書の完全合意条項に従ってその効力を失い、株式譲渡契約書締結後、株式譲渡契約書に定められる秘密保持条項のみ適用される内容をいれるとよいです。 また、株式譲渡後、売主が買主について対象会社情報の秘密保持義務を負う旨を追加。売主・買主間の訴訟の際は、裁判所や弁護士に対して原則情報を公開できることを入れておくと尚よいです。
売主・買主が相談して公表する株式譲渡契約書締結の内容と時期を決めること。 ただし、売主・買主または対象会社に、有価証券報告書提出対象会社の場合、金融商品取引所による適時開示義務に従った開示などが必要なので、その内容については、当該要請に基づいて必要とされる限度で公表することなど。
せっかく補償条項や権利の限定条項を定めても、民法などを用いて、それを無視して抜け道的に、責任の追求や権利の行使をされては意味がないために、本株式譲渡契約書に記載する救済方法に限定するなど。
費用負担について規定しておくこと。M&Aアドバイザー費用、弁護士、会計士、税理士などの専門家の費用、その他のコンサルタント費用、旅費交通費、振込に関する費用、印刷費など。
また、対象会社に発生する届出や許認可などの費用はどうするかについても定めておくと尚良い。
各種の通知先や通知方法を規定。期限内に相手に必要な各種通知がなされたかの紛争を防止するための規定。クロスボーダーM&A(国際間M&A)の場合は、通知言語の限定も。
修正や変更(権利や義務や放棄・免除も含む)については代表者の記名押印または署名した書面でのみなされること。
1つの権利の放棄が同一の事由に基づく他の権利の放棄を意味しないこと。
契約上の権利・地位を第3者に譲渡、移転したり、担保権の設定などその他の方法で処分できないこと。 ただし、途中で、合併などの組織再編行為の予定がある場合は、これらを明示的に記載すること。LBOファイナンスの予定がある場合は、「担保権の設定」などから明示的に除外したり、金融機関による再設定も除外対象に含まれるようにすること。
見出しが契約の解釈に影響を与えないこと。
契約が、契約締結前の全ての合意と了解にとって代わる旨。(Parol Evidence Rule)
交渉の途中で締結した秘密保持契約や基本合意書を存続させたい場合は、完全合意から、明示的に除外する必要あり。
契約書が詳細にわたるものではなく、多くの部分も明示・黙示の合意にゆだねているような場合は、完全合意条項はいれないことも考える。
いずれかの条項が無効または執行不能になっても、他の条項が無効や強制不能になることはない、他の部分には影響しない旨。
実際は一部無効になると契約として成り立たなくなることもあるので、一部無効のような事態が生じて、それが当事者に判明した場合には変更契約を締結して一部無効の規定を排除した後の契約内容を明確化しておくと、後日の紛争防止の観点からは望ましい。
誠実に協議すること。
無過失責任(自然災害等)の場合の契約不履行の場合の取り扱い。不可抗力条項を定めていない場合、損害金を支払う義務があります。
金銭債務の履行については、不可抗力は抗弁となりません(民法第419条第3項)。
言語を指定。翻訳された場合でも指定の言語のバージョンのみが正文であり優先されるなどの旨、いれておいたほうが混乱を避けられる。参考用の翻訳版は印鑑を押さない等、混乱を避ける工夫を。
クロスボーダーM&A(国際間M&A)の時は特に必須。
裁判か仲裁か。また、管轄はどこなのか。 内容によって裁判と仲裁をわけることも可能。
- 裁判か仲裁か?
-
- 3審制の裁判の方が時間がかかるが、誤った結論が出てしまったときのリスクは小。
- 仲裁では、原則として当事者が紛争を解決する第三者である仲裁人を自由に選ぶことができるので、紛争の内容に応じた専門家による判断が期待できる。これに対し、裁判では裁判官を選ぶ権利は当事者には認められていない。
- 裁判は完全素人の陪審員により全く予想外の判断がくだされたり、時間と費用のかかるディスカバリーの手続き(証拠開示の手続き)が必要になったりすることもある。
- 仲裁は、判例の集積に拘束されないため、柔軟な判断が可能。(結果を予測しにくい)。
- 裁判は和訳が必要だが仲裁は英語のままできるので、書類が英語の場合は仲裁の方が時間と手間を削減できる。
- 裁判なら公開、仲裁なら非公開なので、レピュテーションリスクや機密性の高い事項が紛争の対象の場合は、仲裁の方が好ましい。透明性を重視したい場合は裁判で。
- 裁判の場合は、裁判する国と執行する財産の所在国が違うと外国判決の承認が必要になり、強制執行が必ずしも認められるとは限らない。
- 仲裁の場合は、約140カ国の締結国を擁する外国仲裁判断の承認および執行に関する条約(ニューヨーク条約)の締結国であれば外国の仲裁判断も強制執行可能。
ニューヨーク条約の締結国についてはUNCITRALのホームページをご参照下さい。
裁判 一定期間、事前に協議し紛争解決を試みる義務などを入れて不意打ちの裁判を避ける条項を入れる事も可能。
買主から訴える場合は買主の指定した裁判管轄、売主から訴える場合は売主の指定した裁判管轄などという契約もできすが、同一の紛争が2つの裁判所で行われないように、「一旦いずれかの裁判所で訴訟が提起された場合には、その裁判所が唯一の専属管轄裁判所となる」但し書きをいれることも可能。仲裁 一審限り。
どの仲裁期間を利用するか。また、その仲裁期間の規則が適用される事も明記。仲裁人の人数・選定方法、仲裁言語、費用の負担、仲裁などを定めることも可能。
その定めが仲裁期間の規則に矛盾している場合はどうするか。仲裁判断には確定判決と同様の強力な効力が認められる。
交差的な仲裁も可能だが、同一の紛争について2つの仲裁手続きが継続しないように、予めルールを定めておく。
仲裁判断は確定判決と同一の効力を有し、執行決定を得れば裁判所で仲裁判断に基づき民事執行をすることもできる。
仲裁地を外国とする仲裁についても、ニューヨーク条約が定めている要件を充たしていれば同様。
仲裁合意が存在する場合でも、差し止めや仮処分等の保全処分手続きを行うことは可能なため、仲裁合意がある場合でも、保全処分や強制執行手続きなど本案以外の手続きについての管轄裁判所の合意を予めしておくことも可能。(ただし、日本の国際裁判管轄が否定された事例もあり。)
契約当事者分の数の株式譲渡契約書の原本を作って、それぞれに押印するのもよいですが、契約当事者が多い場合、それぞれが、同一のサインページのフォームを用いた別の用紙にサインを行い、事前にメールやFAXで交換し合い、クロージング日にそれを持ち寄って、組み合わせると原本になるというような工夫を。
(同一ページに全当事者がサインしている必要はありません。)
すり替え防止のために割り印をすることも多いですが、全ページに当事者が署名またはイニシャルの記載を行うこともあります。
当ページでは株式譲渡契約書について記載していますので、その他の最終契約については、M&A契約のポイント(その他の最終契約)をご覧ください。