M&Aをご検討の方へ

M&Aの契約のポイント

M&Aの各スキームにおける典型的な最終契約書の種類

当ページでは株式譲渡契約書以外の最終契約について記載していますので、株式譲渡契約書については、M&A契約のポイント(株式譲渡契約)をご覧ください。

TOB(公開買付け)による株式取得に関する契約(応募契約・賛同契約)

上場会社などの有価証券報告書提出会社などの株式を取得する場合は、一定の条件にあてはまる場合、相対取引ではなく、TOB(公開買付け)による株式取得が必要になります。
この場合は、金商法の厳格な規制がかかります。
TOB(公開買付け)の詳細については「TOB(公開買付け)とは?」をご覧ください。

TOB(公開買付け)が必要になる場合には、買付者と対象会社との間の契約、買付者と既存大株主との間の応募契約などを作成します。

買付者と対象会社間の契約

必須ではありませんが、有効的なTOB(公開買付け)の場合、買付者と対象会社で、TOBに先立って以下の内容を記載した契約を締結することがあります。

  • TOBの条件、またその条件に従ってTOBを行う義務
  • TOBが開始されたら、対象者が賛同意見を表明しこれを維持する義務
  • TOB終了後の手続き、またその手続きについて対象会社が協力する義務(TOB後に株式交換や全部取得条項付種類株式を利用して子会社化をする場合の対象会社の株主総会開催など)
  • 対象会社による表明保証(違反した場合でも、補償または損害賠償は対象会社が払うので、買収者が取得した対象会社の株式の価値が下がるだけであり、あまり経済的な意味は小さい条項です)
  • TOBへの賛同意見を撤回し、よりよい条件などを提案してくれた別の第三者の提案に賛同することができる例外条項(Fiduciary Out条項)とそれを発動する時の違約金の条項(Break-up Fee)
  • 開示義務(本TOBの契約の内容は、「公開買付け届出書」および取引所の適時開示のためのプレス・リリースでも同様の開示がなされます。インサイダー取引規制を考慮して、TOBに先立ち、対象会社により公表してもらうことが望ましいです。これをTOB開始の前提条件とすることもあります。)
買付者と大株主の契約

応募契約といって、既存大株主と買付者との間で、公開買付者が一定の条件でTOBを実施し、大株主はそのTOBが実行された場合は、決められた数の株式について、TOBに応募し、またそれを撤回しないことを約束する(応募義務)契約です。以下のように株式譲渡契約に類似した契約条項を入れます。

  • 表明保証
  • より高い買付価格によるTOBが開始された場合に、そちらのTOBに応募をするFiduciary Out条項やそのような例外条項の発動時には大株主が買付者に対して一定の違約金(Break-up Fee)を支払う例外的条項
  • TOBの決済の前に対象会社の株主総会の基準日が到来する場合、TOB直後の株主総会で買付者が議決権行使できるための合意
  • 開示義務(「公開買付届出書」で応募契約の存在および内容が開示され、買付者および対象会社の取引所の適時開示のためのプレス・リリースでも同様の開示がなされます。)
  • その他(独占禁止法や外為法等の規制に該当した場合の、TOB撤回について)
第三者割当増資(新株発行)による株式取得に関する契約(株式引受契約)

株式引受契約とは、対象会社が発行する新株を取得し、会社を買収する方法によるM&Aの最終契約です。
(買収ではなく、一部の株式の取得の場合もこの契約を使います。)
第三者割当増資に関する詳細は、M&Aとは?の「第三者割当増資」のページをご覧ください。
買主と対象会社との間で、割り当てる株式の種類・数・払込金額等の発行条件についての合意がなされます。

上場会社の普通株式を対象とする第三者割当増資の場合には、新たに株式を発行する場合には「募集」、自己株式を用いる場合には「売出」に該当し、有価証券届出書(または発行登録書)の提出が必要になります。
有価証券届出書提出前に、勧誘・販売などをすることは法律で禁じられています。事前に、割当先と条件を協議する事については、割当予定先が限定されていて、その割当予定先が第三者割当増資に関わる有価証券を直ちに転売する恐れが少ない場合は認められています。

発行会社としては、公表後に買主からお金が入ってこないという状況を回避するために、有価証券届出書の効力発生前に引受け契約を締結したいニーズがありますが、届出効力発生前の取引禁止規制(金商法15条1項)との関係で問題があります。
有価証券届出書の効力発生前に引受け契約を締結するものの、引き受ける株主の払込義務は有価証券届出書の効力発生後に行われる申し込みがなされて初めて効力を発生する旨を規定しておくなど、いくつかの実務的な対応例はありますが、法律的にはグレーゾーンですので、注意が必要です。

その他、以下のようなものを契約内容に含めます。

  • 表明保証条項(違反時、補償金を支払うのは買主が株式を取得した対象会社であり、持ち分比率が大きいほど、経済的な意味は小さいです。)
  • インサイダー取引規制について
  • 独占禁止法・外為法等について

契約書のほかにも、一定の基準に該当した場合は、取引所の開示ルールにより、さまざまな書類が必要になります。詳細は、東証有価証券上場規定などをご覧ください。
また、有価証券届出書または発行追補書類を提出する場合には、以下のような情報の開示も原則として要します。(企業内容等の開示に関する内閣府令第2号様式の記載上の注意参照)

  • 割当予定先の実態(発行会社と割当予定先との関係、割当予定先がファンドの場合は主たる出資者およびその出資比率等、反社会的勢力との関係の有無など)
  • 割当予定先による株式の譲渡に関わる事項
  • 割当予定先による資金手当て
  • 手取り金の使途(使途の区分毎の内容、金額および支出予定時期の具体的な記載含む)
  • 発行条件に関する事項(算定根拠や条件の合理性に関する資料)
  • 大規模な第三者割当に関する事項(当該第三者割当を行うこととした理由および既存株主に与える影響についての取締役会の判断の内容、大規模な第三者割当を行う判断過程の記載を含む)
株式交換に関する契約(株式交換契約)

株式交換を行う会社は株式交換契約を締結しなければなりません。株式交換の詳細については「株式交換とは?」をご覧ください。
株式交換契約については、法律により必要記載事項が定められているので(会社法749条1項各号)、必ず、契約に必要記載事項は入れるようにしてください。
株式交換契約は法律上の手続きのため、合意内容の変更には、再度株主総会の特別決議が必要となり、簡単ではありません。そのため、事後的に修正・変更が必要になりそうな内容は、株式交換契約とは別に、サイドレター(合意書)に規定していくことも、検討してください。

必要記載事項
  1. (1)当事会社の商号および住所
  2. (2)株式交換対価の交付に関する事項(株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債・それ以外の財産の交付に分けて規定されています)
  3. (3)対価の割当に関する事項
  4. (4)株式交換完全子会社の新株予約権者に株式交換完全親会社の新株予約権を交換するときの新株予約権に関する事項
  5. (5)効力発生日
任意記載事項
  1. (1)定款変更に関する事項(商号、目的、公告方法、発行可能株式総数など)
  2. (2)株式交換決議をなすべき株主総会の日
  3. (3)剰余金の配当の限度額
  4. (4)株式交換に際して選任される取締役・監査役など
  5. (5)退任役員に対する退職慰労金の支給に関する事項
  6. (6)使用人の雇用関係に関する事項
  7. (7)株式交換契約締結日から効力発生日迄の間に当事会社の財産状態や経営状態に重要な悪影響を及ぼす事由やその他の一定の事由が行われた場合の株式交換契約の解除条項
  8. (8)株式交換契約締結日から効力発生日までの間の株式交換当事者が善管注意義務をもって業務を執行する旨
  9. (9)多段式の組織再編行為が行われる場合に、前段階の組織再編行為の効力発生を株式交換契約の効力発生の停止条件とする旨の規定など。
  10. (10)株式交換の効力発生前までに完全子会社になる会社が自己株式を消却しておく自己株式処理に関する事項
届出
吸収合併の場合と同様の届出義務があります。詳細は「株式交換の法務・手続き」をご覧ください。
それに加えて、上場会社が完全子会社となる場合には、当該完全子会社において、親会社・主要株主の移動に関して、臨時報告書を提出する必要があります。
また、待機期間の満了を株式交換の効力発生の条件とする旨、届出の実行に関しての相手方の協力の誓約などを株式交換契約およびサイドレターに加えてもよいでしょう。
当事会社に上場会社が含まれる場合の注意事項
1. 振替株式に関する手続き
当事会社の上場、非上場の別に応じて振替法および証券保管振替機構の業務規定に基づく手続きが必要になります。
最低1ヶ月はみておいてください。
2. 米国証券取引法に関する手続き
日本の上場会社が合併等の取引を行うときは、当該上場会社に米国実質株主が存在する場合は、1933年米国証券法に基づく手続きが必要になります。
当該上場会社は一定の例外事由に該当しない限り、フォームF-4という様式を使って、当該行為に際して発行する証券を米国の証券取引委員会(SEC)に登録する義務を負います。この登録作業のため、米国基準に従って財務諸表を作りなおし米国基準の監査を経て、関係資料を英訳する必要性など、相当の作業が必要になりますので、一般的に多額の必要と1年程度の準備期間が必要になりますので、注意が必要です。また、1934年米国証券法に基づいて、継続的に開示義務が生じますので、適用免除規定の適用が受けられない場合は、出来れば、金銭対価の組織再編手続きやTOB(公開買付)などにより、株式交換でないスキームを検討してください。
どうしても株式交換のスキームをとる場合は、F-4ファイリングの完了を株式交換の効力発生の前提条件としてください。

日本の上場企業が利用できる免除規定としては、当該米国実質株主が対象会社の自己株式を除く発行済株式の10%超を保有していなく、またその他の要件を充たしているというものがあります。10%ルールの要件を充たせば、フォームF-4の登録は不要になりますが、SECに対してフォームCB(株式交換に関して行った公表や株主への通知の英訳を添付した簡単な報告書)およびフォームF-X(米国内の送達代理人を任命する書類)を提出する必要がありますので、ご注意ください。

株式移転に関する契約(株式移転契約)

株式移転は、必要的記載事項を記載した株式移転計画さえあれば、契約なくして実行できますので、グループ内での組織再編の場合は、契約を作成しないで実行することも多いです。 M&A取引の場合には、株式移転計画の内容を定めるとともに、その他関連する合意事項を定める事を目的として、株式移転契約や統合契約などが別途作成されることがあります。 株式移転についての詳細は、「株式移転とは?」をご覧ください。

株式移転計画の必要記載事項 株式交換契約の必要記載事項とほぼ同じです。
届出など
株式交換の場合とほぼ同じです。
独占禁止法に基づく待機期間(30日)は、待機期間の満了を効力発生の条件とするように、株式移転計画に記載することもあります。
株式交換と異なる点
  • 株式移転は、完全子会社となる会社の株主に対して交付する対価について、株式以外の財産を対価とすることが認められていない点で、株式交換と異なります。
  • 完全親会社は新設会社などで、完全親会社に関する基本的事項である定款に定める事項や、設立時取締役・監査役などを定める必要がある点も、株式交換と異なります。
  • 完全親会社が新設会社のため、設立後最初の定時株主総会が開催されるまでの間は取締役などの役員報酬が決議できないため、初年度の役員報酬の上限額を定款に規定することもあります。
  • 米国証券法の10%ルールについて、完全子会社となる両当事者合算で10%超になるかをみる必要がある点が異なります。
事業の取得に関する契約(事業譲渡契約書)

事業譲渡契約書とは、会社を丸ごと買収するのではなく、事業単位または事業の一部のみを買収する事業譲渡についての契約書です。 事業譲渡についての詳細は、「事業譲渡とは?」をご覧ください。

事業譲渡契約書の決議

事業譲渡契約書の承認は、以下の場合は、株主総会の特別決議が必要です。

  1. 事業の全部または重要な一部の譲渡
  2. 事業全部の賃貸、その経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、それに準ずる契約の締結、変更または解約
  3. ほかの会社の事業全部の譲り受け
  4. 事後設立に該当する場合

ただし、簡易な事業の譲受けに該当する場合(簡易事業譲渡)や譲受会社が特別支配会社である場合(略式事業譲渡)は不要です。

事業譲渡契約書の内容

事業譲渡契約書の内容は株式譲渡契約書に類似した内容の規定が置かれ、構成・分量も類似していますが主に以下の点が異なります。

  1. 事業譲渡契約書では、譲渡対象の事業と譲渡対象の事業を構成する財産、債務を定めます。別紙などで詳細に定める場合もあれば、大まかな範囲を記載して別途協議とする場合もあります。
  2. また、事業譲渡契約書では、実務上競業避止義務についての定めを置きます。
    会社法の定めにおいて、当事者が別段の意思表示をすることなく事業譲渡がなされた場合、譲渡会社は、当該事業を行っていた同一市町村内およびこれに隣接する市町村の区域内において、その事業を譲渡した日から20年は同一の事業をおこなってはならないという競業避止義務が課されます。
    実務上は、範囲と期間を縮減する特約を置くのが通常であり、または競業避止義務を負わない合意をすることも可能です。
  3. 事業譲渡の場合は、事業に関する債務を引き受けることになる結果、投資額以上の損失が生じる可能性が否定できない部分が違います。
    一方、株式譲渡は、株主有限責任の原則により投資額・出資額迄の損失額におさえられます。
    実務上は、事業譲渡契約書中に、「譲渡対象に関連して発生する債務であって現時点で判明していないものについては一切承継しない」旨を記載することで対応されます。
    ただし、不法行為債務についていえば、事業譲渡に伴って債務引受があったと擬制する判例があります。
    また、譲渡対象資産の定め方で潜在債務も承継されたと介されてしまう余地があります。
届出、規制など
譲渡会社または譲受会社が有価証券報告書提出会社である場合は、臨時報告書や適時開示などの開示規制がおよびます。
また、一定以上の規模の場合、独占禁止法の事前届出および30日間の待機期間が必要となります。
詳細は「事業譲渡の法務・手続き」をご覧ください。
合併に関する契約(合併契約書)

合併をするためには、合併の当事会社が合併契約書を締結しなければなりません。この合併契約書は、事前開示事項として開示され、また登記の添付書類となります。
合併についての詳細は、「合併とは?」をご覧ください。
合併契約書については、法律により必要記載事項が定められているので(会社法749条1項各号)、必ず、合併契約書に必要記載事項は入れるようにしてください。
合併契約書自体は、2ページ程度の契約になることも少なくありません。合併契約書の作成は法律上の手続きのため、合意内容の変更には、再度株主総会の特別決議が必要となり、簡単ではありません。 そのため、事後的に修正・変更が必要になりそうな内容は、合併契約書とは別に、サイドレター(合意書)に規定していくことも、検討してください。

必要記載事項
  1. 存続会社及び消滅会社の商号および住所
  2. 消滅会社の株主に対して金銭等を交付する場合の当該金銭等及びその割り当てに関する事項
  3. 消滅会社の新株予約権者に対して交付する存続会社の新株予約権又は金銭及びその割り当てに関する事項
  4. 合併の効力発生日
任意記載事項
  1. 定款変更に関する事項(商号、目的、公告方法、発行可能株式総数など)
  2. 合併決議をなすべき株主総会の日
  3. 剰余金の配当の限度額(消滅会社における中間配当の基準日後を効力発生日とする吸収合併の場合、消滅会社の株主に対する中間配当を行うため)
  4. 合併に際して選任される取締役・監査役など
  5. 退任役員に対する退職慰労金の支給に関する事項
  6. 使用人の雇用関係に関する事項
  7. 合併契約締結日から効力発生日迄の間に当事会社の財産状態や経営状態に重要な悪影響を及ぼす事由やその他の一定の事由が行われた場合の合併契約の解除条項
  8. 合併契約締結日から効力発生日までの間の合併当事者が善管注意義務をもって業務を執行する旨
  9. 多段式の組織再編行為が行われる場合に、前段階の組織再編行為の効力発生を合併の効力発生の停止条件とする旨の規定など。
  10. その他
届出

合併消滅会社が非上場会社の場合や、合併存続会社が上場会社でその上場されている株券を発行・交付する場合は届出が不要ですが、合併消滅会社が上場会社で合併存続会社が非上場会社のような場合には届出が必要になる可能性があります。
(発行価額・売出価額が1億円未満であれば、届出は不要ですが、有価証券通知書の提出が必要となる場合があります。)

また、完全親子会社での無対価の合併など、株式が発行または交付されない場合には、届け出義務の適用はありません。
吸収合併に伴って、存続会社が消滅会社の新株予約権を承継する場合には、新株予約権に関する有価証券届出書を提出する必要がある場合があります。
臨時報告書も軽微基準に該当しない場合は必要になります。取引所規則に基づく適時開示、独占禁止法に基づき届出も必要になる場合があります。
詳細は、「合併の法務・手続き」をご覧ください。 実務上、有価証券届出書の提出義務を、合併の効力発生の条件として規定します。

当事会社に上場会社が含まれる場合の注意事項
1. 振替株式に関する手続き
当事会社の上場、非上場の別に応じて振替法および証券保管振替機構の業務規定に基づく手続きが必要になります。
最低1ヶ月はみておいてください。
2. 米国証券取引法に関する手続き
日本の上場会社が合併等の取引を行うときは、当該上場会社に米国実質株主が存在する場合は、1933年米国証券法に基づく手続きが必要になります。
当該上場会社は一定の例外事由に該当しない限り、フォームF-4という様式を使って、当該行為に際して発行する証券を米国の証券取引委員会(SEC)に登録する義務を負います。
この登録作業のため、米国基準に従って財務諸表を作りなおし米国基準の監査を経て、関係資料を英訳する必要性など、相当の作業が必要になりますので、一般的に多額の必要と1年程度の準備期間が必要になりますので、注意が必要です。また、1934年米国証券法に基づいて、継続的に開示義務が生じますので、適用免除規定の適用が受けられない場合は、出来れば、金銭対価の組織再編手続きやTOB(公開買付)などにより、合併でないスキームを検討してください。
どうしても合併のスキームをとる場合は、F-4ファイリングの完了を合併の効力発生の前提条件としてください。

日本の上場企業が利用できる免除規定としては、当該米国実質株主が大正会社の自己株式を除く発行済株式の10%超を保有していなく、またその他の要件を充たしているというものがあります。10%ルールの要件を充たせば、フォームF-4の登録は不要になりますが、SECに対してフォームCB(合併に関して行った公表や株主への通知の英訳を添付した簡単な報告書)およびフォームF-X(米国内の送達代理人を任命する書類)を提出する必要がありますので、ご注意ください。

会社分割に関する契約

新設分割と吸収分割というものがありますが、(詳細は「会社分割とは?」をご覧ください)、吸収分割を行う会社は吸収分割契約を締結しなければなりません。
組織内再編ではなく、M&Aで会社分割を使う場合は、吸収分割(または新設分割)によって事業を承継した子会社の株式を譲渡するという形で吸収分割を使われる事が多いです。

契約内容

合併の場合とほぼ同様の、必要記載事項が定められています。任意的な記載事項も合併の場合とほぼ同様です。吸収分割契約とは別にサイドレターが締結される場合や前もって覚書が締結される場合があることも合併の場合と同様です。
吸収分割に特有な点は以下の点になります。

  1. 会社分割では、承継する資産等を選択可能であることから、承継会社が承継する資産、義務、雇用契約、その他の権利義務に関する事項を記載する必要があります。

    承継させる権利義務の定め方は、グループ内の再編による吸収合併の場合は、特定の権利義務が分割後いずれの会社に帰属するかが明らかになる程度の記載で大丈夫ですが、第三者とのM&Aのための吸収合併の場合は、具体的に承継対象の権利義務を個別具体的に記載していくことが望ましく、債務の承継については、それが免責的に承継されるのが、重畳的に承継されるのかを明示します。また、労働契約のうち債務的部分の一部または全部を承継会社に承継させるために、分割契約に定める必要があります。

  2. 必要記載事項について以下は留意してください。
    1. (1)分割会社または承継会社の株式を承継会社に承継させる場合は、当該株式に関する事項を記載する必要があります。
    2. (2)対価については、交付先は分割会社となるので、対価の割当に関する定めは記載されません。(無対価とすることも可能です。)
    3. (3)分割会社が、承継会社から取得した承継会社の株式を全部取得条項付種類株式の取得対価としてその株主に交付したり、現物配当としてその株主に交付したりする場合には、これらに関する事項を記載する必要があります。
  3. 債権者保護手続き

    会社分割に意義を述べる事ができる債権者は限定されています。(詳細は「会社分割の法務・手続き」をご覧ください。)
    また、分割会社は、官報公告に加え、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日経新聞紙または電子公告により公告する場合でも、不法行為により生じた債務の債権者に対しては、各別の催告は省略できません。また、この不法行為債権者は、まだ知られていない潜在債務にかかる不法行為債権者も含みます。
    このような事態にふまえて、分割会社は承継会社に求償できる旨の規定を置くこともありあす。

  4. 表明補償

    吸収合併や株式交換は表明保証違反の請求をしても、実際は自分自身にすることになるので、あまり、表明保証条項が経済的に意味をもちませんが、吸収分割の場合は、分割会社と承継会社は別の法人格を維持し、また100%親子関係とならないため、表明保証の事後的な救済としても一定の意味をもつ可能性があります。
    分割によって事業を承継した子会社の株式を譲渡するというM&Aのための会社分割の場合、分割契約自体に表明保証条項を設けるのではなく、吸収分割後に実行する株式譲渡契約において、契約締結日時点における分割対象事業および取引実行日時点における(会社分割の効力発生後の)譲渡対象事業に関する表明保証をさだめることによって達成する方法が現実的です。

  5. 労働関係

    会社分割では、労働契約の承継手続きが発生します。詳細は「会社分割の法務・手続き」をご覧ください。
    法律上必要とされる手続きのため、契約上の規定の有無にかかわらず実施する必要があります。実務上は分割契約またはサイドレターにおいて、分割会社においてかかる手続きを行う義務を定めたり、かかる手続きが既に行われた事を確認したりする規定を置くことができます。

届出、規制など

金融商品取引法や振替法に関しては、他の組織再編の行為の場合と同じです。独占禁止法についても他の組織再編の場合と同じで一定の規模を超えると届け出義務および30日間の待機期間の定めがあります。詳細は「会社分割の法務・手続き」をご覧ください。必要に応じて届け出義務や協力義務を分割契約またはサイドレターに規定してください。

当ページでは株式譲渡契約以外の最終契約について記載していますので、株式譲渡契約については、M&A契約のポイント(株式譲渡契約)をご覧ください。

※本ページは2015年1月1日現在の法令等に基づいて作成されており、これ以降の税制改正等が反映されていない場合がありますのでご留意ください。
また、概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本解説の情報を基に判断し行動されないようお願いします。